日本画 その1
日本画は元々、国画、大和絵とか呼ばれたもので、明治維新後に西洋絵画が来てその区別として 日本画という言葉が生まれました。何を「日本画」と定義するかは色々な考え方があるみたいです。
  • 日本で描かれたものは画材問わず、精神的な真髄で描かれている絵はすべて日本画
  • 日本画絵具で描かれた絵が日本画
  • 明治以降の日本画絵具で描かれた絵が日本画
  • 日本画絵具で書かれていれも、岡倉天心、フェノロサ系譜の絵が日本画
顔料の接着剤に注目して、油を使ったものは油彩画と呼ばれるように、膠を使っているので、「膠彩画」と分類されることもあります。 一般的には日本画はリアル感を求める表現技法ではなく、光や陰影を求めるよりも、物の色そのものを再現することを重視しています。 個人的には、「ライティングされた結果ではなく、アルベドを描く」という解釈をしました。
日本画の画材
膠(ニカワ)は接着剤の役割を果たします。日本画は石や土や金属や貝の粉を膠でキャンバスにつけて絵を描きます。 膠は煮皮とも呼び、日本では牛がよく使われているそうです。 下図のように棒状の固形になっており、これを折って、瓶に水と一緒に入れ一晩冷蔵庫などに寝かせた後、 湯煎で溶かしてドロドロになった状態で使用します。
瓶に入れて溶かす
胡粉
胡粉は貝(ハマグリ、イタボガキ)の粉です。下地を塗ったり、白を出したい際に使います。 胡粉は乳鉢で細かく擦って上で、膠を混ぜ込んで団子状にして使用します。 これだけで30分位かかる上に、胡粉団子も膠が混ざっているため日持ちがしないので、作りおきはできません。 また、膠の量が適切でないと、後でひび割れてしまいます。(絵具が剥がれる要因になります)
胡粉
乳鉢
水干絵具(泥絵具)
水干は水で洗って干すの意味です。泥を染料で染めています。 粉なので色々な混色ができます。岩絵具に比べて比較的安価です。
岩絵具/新岩絵具

岩絵具は天然の岩(宝石)を細かく砕いたものです。 粒子の大きさで1〜15+白(ビャク)の16段階があります。1のほうが大きいです。大きいものの方が接着が難しいです。 岩絵具は粒が大きいので、水干絵具とは違い、溶けることはなく比重の差ですぐ分離してしまいます。 なので、キャンバスに「塗る」というより「置く」という表現が正しいと思います。 粒子同士の隙間が空きやすいので全体の均一な塗りは難しいです。 天然の高い岩絵具は存在する数が限られていてとても高価です。 なので、お金がある人ではなく、ちゃんとその絵具を使える人が使って欲しいと先生が話されていました。

新岩絵具はガラスの原料の粉末と金属化合物を配合して、溶かして固形にして砕いて人工的に作ったものです。 岩絵具と比べると安価です。

天然の岩絵具は焼くことで別の色に変わります。 例えば辰砂(HgS)は鳥居の朱色などに使われていますが、熱を加えることで黒辰砂に変わり、黒色になります。 ただ、HgS + O2 → Hg + SO2 となり、有毒な二酸化硫黄が発生するので、今は作られていないとか…。

絵具皿
絵具を混ぜるための陶器製の皿です。大きさは様々です。大きいほうが使い勝手が良かったです。
和紙
写真は雲肌麻紙という和紙です。この和紙は結構高価です。三六判(900mmx1800mm)で8000円ほどでした。 写真の和紙はドーサ引きと呼ばれる和紙に防水加工のコーティング(ミョウバンと膠水を混ぜて紙に塗る)がされています。 このドーサが剥がれているとびっくりするくらい絵具が滲みます。
筆は大中小と号があり、号は数が大きいほど大きいです。 天然即妙筆、削用筆、隈取筆などがあります。 絵を描くのに筆だけに拘る必要はなく、日本画は毒性のある 絵具はあまりないので、指や爪で描いてみるのも、面白い表情が出て良かったです。
墨と硯
書道で使うのでお馴染みのものです。 ちなみに墨は乾くと薄くなるので最初は濃すぎるくらいでちょうどよいそうです。 そのためには、最初には水を入れすぎないことが大事で、まずいっぱい磨った濃い墨を作って、 それを状況に合わせて水で薄めるのが良いとのことです。 硯は丘に数滴水を垂らしてゆっくり磨りましょう。 間違っても、硯海に水を貯めてそこで直に墨を擦ってはいけません。
百合の花をデッサンする
モチーフはユリです。今回、デッサンは全部を描く必要はなく、また色塗りも実際と同じ色を塗る必要はないです。 絵具の使い方を学ぶ機会でしたので、主役は大きく描きました。
構図を決めるために色々な角度から写真を撮るのは有用でした。 空間を切り取った時にどう見えるかのイメージがつくのと、接写での見え方は近づいて大きく描く場合のイメージが湧きました。 また、実際に物を触ってみて薄い/厚い/硬い/柔らかいなどを知ることも絵を描く上で大事でした。
モチーフとモデルの違い
モチーフは動機づけ(Motivation)、そのモノから想起されるものを描きます。モデルはそのものを描きます。 今回のケースはモチーフなので、ユリをどう描きたいのかが大事です。
キャンパスに転写する
画用紙にデッサンしたものをトレーシングペーパーで写し取り、それを和紙を水張りしたキャンパスに転写します。 画用紙の方が少しサイズが大きいため、どの部分を転写するかでまた構図が変わります。
骨描きして下地に胡粉を塗る
先程のトレーシングペーパーを利用して、骨描きと呼ばれる輪郭を墨で描いていきます。 骨描きが終わったら絵具の発色を良くするために下地に胡粉を塗ります。多分化粧で言うファンデーションと同じだと思います。 塗ってすぐはそれほど色の変化を感じませんが乾くと結構白くなります。
胡粉を1回塗った状態
胡粉を2回塗った状態
自由に塗っていく
陰影は意識せず、物体の固有色を描いていくようにしました。 ここは影になっているから暗くする…ではなく、そのものの色が暗いかを確認するイメージです。
そんなこんなで完成です。
日本画を描いてみて

日本画を描いたりいろいろな作品をみてまず感じたことは、「リアル」ではないが、「らしさ」を感じたことです。 ルネサンス時代の西洋画のようなどんどん解像度を上げていく方法ではなく、特徴を捉えたシンプルな記号化された表現を使って「らしさ」を表現しています。 そして、この特徴を捉えたシンプルな記号化された表現というのは「」とも言い表せるかと思います。

型の例として花札が挙げられると考えられます。 花札は季節の特徴を捉えてシンプルに表現していると思います。 そして、現在では様々なIPの花札も作られたりしていますが、これも「型」から色々派生したものと言えると思いました。

「型」は人が想像する理想であり、それは何を省略して、何を誇張するかをいろいろな人が「型」を元に試行錯誤した結果の積み重ねとも言えると思いました。

本内容は武蔵野美術大学 通信教育課程「日本画」の講義で作成したものです

Prev Next